| 観客A… |
「来ました、来ました、来ましたでー。仰山の人が曳いてますなあ。いったい全部で何人位いてますんやろか。」 |
| 通人… |
「そうやなあ、町によって違うけど400人から500人やな。」 |
| 観客A… |
「そら、すごいもんやな。見てみなはれ、子供から大人まで同じ法被着て見事なもんですな。鉢巻きも揃うてるがな。」 |
| 通人… |
「当り前や、同じ法被着てんと参加出来へん。鉢巻きは格好つけでやってんのとちゃいまっせ。こけた時に頭打っても大きな怪我せんようにやってまんねん。それより綱の一番前走ってる若い子、何ていうか知ってまっか。」 |
| 観客A… |
「ほんに子供さんの前、走ってんのは高校生位でんな。何て言いますんや。」 |
| 通人… |
「あの子らも青年団や。青年団は綱の後ろの方を曳くんやけど入って一年目は、綱先いうて一番前を持たされまんのや。子供らだけやったらだんじりの方が早い。綱がたるんで危ないさかい、元気のえー若い子が、小さい子に怪我させんように一生懸命走ってますんやで。この子らが一番しんどいかもしれまへんな。」 |
| 観客A… |
「ほんにしんどそうや。綱先の前で瓢箪の大きなのを持って走ってんのはなんです。」 |
| 通人… |
「あれが纏ちゅうもんです。その町のシンボルみたいなもんですわ。岸和田の人やったら、あれを見たら何処の町かわかるらしい。」 |
| 観客A… |
「えらい勢いで走って来ましたけど、カーブの手前で止まりましたで。何かありましたんか。」 |
| 通人… |
「遣りまわして知ってますやろ。その遣りまわしの前に一回だんじりを止めなあかん、これが一旦停止です。車やったら信号の手前に線引いてますやろ、だんじりも一緒ですわ。但し車の線より大分手前にだんじり専用の線を引いてますんや。岸和田では普段でも車はあの線で止まらんとあきまへん。それだけやない、信号の無い交差点でも曲がる時はそこで止まらなあかん。但し曲がる時は左右の確認はせんでもえー。その代わり屋根を見らんとおこられるらしい。岸和田の自動車学校では皆そない教えてるそうでっせ。」 |
| 観客A… |
「へえー、岸和田では免許取りにくいですなあ。」 |
| 通人… |
「そういう事でんなあ。」 |
| 観客A… |
「あ!来た、来た、来ましたでえ。…わ!…わ!…わあ!……おお!……うわあ!……うおお!!。……こんな落語はじめてや。…わあ!……ああァ!……このまま一時間喋ったろかな。……うわあ!……ふう……。……曲がりましたなあ。しかしえらい迫力でんなあ。」 |
| 通人… |
「わしも聞いては来たけど、すごいでんなあ。…あ!また次きましたでえ。」 |
| 観客A… |
「今度は反対側から来ましたで。こらまた仰山いてますなあ、長い綱ですなあ。シタノマチて書いてまっせ。」 |
| 通人… |
「下野町(しものちょう)ですわ。ここは岸和田で一番綱の長いので有名なとこですわ。」 |
| 観客A… |
「ほんま長いでんな。先頭はずっと前へ行ってんのに、まだだんじり来まへんで。」 |
| 通人… |
「そうでっしゃろ。なんせ先頭の人はだんじり見らんと祭を終るらしい。」 |
| 観客A… |
「あんた暫くだまっときなはれ。 あ!来た、来た。…わ!…わ!…わあ!……おお!……うわあ!……うおお!!。…わあ!……ああァ!……曲がりましたなあ。」 |
| 通人… |
「曲がりましたなあ。また来ましたで。」 |
| 観客A… |
「あ!来た、来た。…わ!…わ!…わあ!……おお!……うわあ!……うおお!!。こんなんばっかりや。…わあ!……ああァ!……曲がりましたなあ。」 |
| 通人… |
「曲がりましたなあ。また来ましたで。」 |
| 観客A… |
「あ!来た、来た。…わ!…わ!…わあ!……しかし、いつまでこんなんやりまんの。そろそろ次いきましょか。私も疲れてきた。」 |
| 観客A… |
「さっき前で子供がこけてましたやろ。何で綱、離しまへんのやろ。怪我しまっせ。」 |
| 通人… |
「綱離さへんかったら擦り傷ですむけど、離したら後ろの人もこけて大きな事故になるんや。そやから岸和田ではこけても絶対に綱を離したらアカンちゅうて、子供の時からいわれてるんや。」 |
| 観客A… |
「そら怖いですな、命がけやがな。スピードも大分出てまっせ、エンジンは何処に積んでますのやろ。」 |
| 通人… |
「そんなもんあるかいな。皆で引張ってますんや。」 |
| 観客A… |
「仰山人も乗ってるし、重たそうでっせ。それがあんなスピードが出て綺麗に曲がって、…どっかにハンドル隠してますんやろ。」 |
| 通人… |
「だんじりの前で二人、それと後ろで体の大きな人が仰山いてますやろ。あの人らが曲げてますんやで。」 |
| 観客A… |
「信じられへんなあ。だんじりの後ろにシール貼ってんとちゃいまんのか。」 |
| 通人… |
「どんな?」 |
| 観客A… |
「トヨタとか、ニッサンとか……。」 |
| 通人… |
「車やがな、それやったら。ホンダも言うたって。」 |
| 観客A… |
「まだありまっせ、マツダ・三菱・スズキ・クロガネ…。」 |
| 通人… |
「何処までいくねんな?。なんやそのクロガネちゅうのは。車と違う。
屋根に乗ってる人がいてますやろ。あの人が曲がる時の指示をだしてまんねん。」 |
| 観客A… |
「格好よろしなあ、あれは。あんだけ走ってる上でよう踊ってますな。しかしあんまり高う飛んだらあきませんやろ。」 |
| 通人… |
「何でやねん。」 |
| 観客A… |
「そうでっしゃろ。飛んでるあいだに、だんじりが行ってしもたら悩まなアカン。高う飛び過ぎて……あっ!行ってもた。……次のだんじり来る迄またなしゃあない。」 |
| 通人… |
「そんな阿呆な事できるかいな。あれは大工方いうて、一年中練習してますんや。」 |
| 観客A… |
「大工さんしか屋根には乗れまへんのか。」 |
| 通人… |
「昔はそうやったらしいけど、今はそんな事もないらしい。そやけど誰でも乗られへん。試験があるんや。弁護士になるより難しい。」 |
| 観客A… |
「どんな試験があるんでっか。」 |
| 通人… |
「先ず岸和田に二十年以上住んでるちゅう証明書や。それに税金をおさめてなあかん、納税証明書も要る。これがあったら試験を受けられるんや。」 |
| 観客A… |
「あんた役所の人でっか、まァよろし。……それから?。」 |
| 通人… |
「受験料を納付して、筆記試験と路上試験や。これがどっちも難しい。筆記は現代国語から微分・積分まである。」 |
| 観客A… |
「ほたら、路上試験いうたらなんです?。」 |
| 通人… |
「走ってるバスの上に乗って踊りまんねん。」 |
| 観客A… |
「ほんまかいな。面接はないんでっか。」 |
| 通人… |
「これが一番大事や、なんせあれだけ目立つ場所や。よほどの男前やないと免許くれへん。」 |
| 観客A… |
「そんな事おまへんやろ。どう見ても……この人は面接受けて無いいう人もいてましたで。」 |
| 通人… |
「あんた、ようそんな事言えまんな。岸和田は皆、男前ばっかりや。どっかよその祭でっしゃろ。」 |
| 観客A… |
「女の子も仰山いてますな。皆可愛い子ばっかりや。」 |
| 通人… |
「そうですやろ。岸和田の美容院は、正月より祭の方が忙しいらしい。」 |
| 観客A… |
「ほんに、凝った髪型してますな。寝る時どないしてますんやろ。祭は二日でっしゃろ、頭は洗いまへんのかな?。」 |
| 通人… |
「知りまっかいな。そんな事聞いてどないしまんねん。」 |
| 観客A… |
「私が洗たげよかな思うてね。……しかし、困ったな。」 |
| 通人… |
「どないしましたんや、何を考えてまんねん。」 |
| 観客A… |
「これだけの女の子や。……私一人では体がもたん。」 |
| 通人… |
「何をしょうも無い事いうてまんねん。それよりあんたが喋ってる間に一杯行ってしまいましたがな。ちゃんと見てましたんか?。」 |
| 観客A… |
「まかしとくなはれ、全部おぼえてま。」 |
| 通人… |
「ほな最初は何処でした?。」 |
| 観客A… |
「一番最初は大北町や。次が中北町。」 |
| 通人… |
「なるほど、その次は何処や?。」 |
| 観客A… |
「並松町に大手町や。」 |
| 通人… |
「ほう!ちゃんと覚えてんやな、次は?。」 |
| 観客A… |
「下野町・紙屋町・春木南に中之濱町と、どや。」 |
| 通人… |
「なるほど、その次は?。」 |
| 観客A… |
「沼町・中町・藤井町に大工町。宮本町・南町に筋海町。続いて 本町・五軒屋町・堺町・北町・上町、最後に別所町と、どうです。」 |
| 通人… |
「こらまいった!あんた喋ってるだけや思たら、しっかり見てましたんやな。それに町の名前も全部知ってて、えろう詳しいでんな。」 |
| 観客A… |
「当り前や! あんたの蔵には、だんじりがあったかも知れんけど私の家の蔵にはカンカン場が入ってましたんや。」
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