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presented by 岸和田だんじり祭振興会 

   

■ きしわだ創作落語 ■
〜其の壱〜

『すぺしゃるしーと』

 この日本には沢山のお祭がございます。その殆どが、五穀豊穣とか無病息災を祈願したお祭ですが、なかには子孫繁栄を祈願したお祭もございます。泉大津のだんじりがそれです。止まってる処へ、後ろのだんじりがドーンとぶつかっていきます。つまり男と女ですな。これはなかなか迫力があって、このお祭も見てると結構面白いもんでございます。あたる瞬間も迫力があって面白いですが、前を曳いてる子供さんや青年団の人らの逃げる処も迫力があります。ただ気になるのは2台だけやったらまだ宜しい。ところがすぐまた後ろからぶつかってきて3台にも、たまには4台にもなる事があるらしい。見てる人は、その方が面白いよって喜んでますが、よう考えたら三角関係で揉めんのとちゃうやろか、いらん心配をしてしまいます。

 関東へいくとお神輿が多いですけど、関西はだんじりですな。色んな処でやってますけど、岸和田があまりに有名になり過ぎてしまいました。だんじり言うたら岸和田。こんなんはまだ宜しい。ところが祭りを見物に来る人を乗せた観光バスに、泉州だんじり祭りて書いてるのがたまにあります。これは私ら岸和田の人間が見たら、ちょっとちゃうでと思います。何でか言うたら祭りちゅうもんは、その土地で生まれて、土地の人が大事に育ててきたもんです。それこそここまで色んな事があったんやと思います。その永い歴史と伝統を引継いできていまがあります。場所が変われば、当然その歴史も文化も変わります。そやから泉州だんじり祭りとちゃうんです。高石だんじり祭・貝塚だんじり祭・熊取だんじり祭なんです。なんでも岸和田を真似するような風潮が最近特に多く見られるように思います。その土地土地が育ててきた祭を大事にして欲しいと、痛切に感じます。

 メモ取ってんとちゃいますやろな、落語家の言うてる事でっせ。こんな真面目な話したらすぐにボロでますんで噺もどしますけど、ほんま有名になりましたな。また巨人の清原が、
「わいは岸和田や」「岸和田のだんじりや」
みたいなこと言いよるからよけいですわ。先日、友達が仕事で東京へ行ったら、向こうの人に言われたらしい。
「あんた岸和田ですか。……0724ですか。」
……なんや訳わからん言うてました。こんな調子やから、この頃は只だんじりを見たいて言うて来てた見物人も、岸和田へ来る前にちょっと勉強して来る人が結構いたはるようです。遠くから来てカンカン場の観覧席で見てる人にそんな人が多いですな。

観客A… 「うわー。来ましたなあ。」
観客B… 「来ましたなあ、これが岸和田でっか。」
通人… 「そうや、これが岸和田ですわ。」
観客A… 「えらい仰山の人がいてまんな。またこれは大きな観覧席やな。ごっついでんな、これが…あの……何て言いましたかな。」
通人… 「そうです、ここがカンカン場ちゅうとこですわ。ほんで今私らがいてるとこが、あの有名な岸和田だんじり祭スペシャルシートだ。」
観客A… 「しかし、カンカン場ちゅうのはけったいな名前でんな。なんか意味ありまんのかいな。」
通人… 「ええ質問や、よう問うてくれた。これを話しとかんと前へ進まれへん。その昔ここら辺りは大きな港やった。船で荷物を一杯運んできます。その荷物を計る秤のことを看貫(カンカン)と言うた。看貫のある場所でカンカン場や。」
観客A… 「ほたら何ですか。競馬で馬が走る前に、荷物の目方を計る場所の部屋をカンカン場いうてますけど、あれと一緒でっか。」
通人… 「そうや。その目方が重たい言うて、しんどそうにしてる馬のことを "あの馬、カンカン泣きしとる"言うやろ。あれもそうやな。」
観客A… 「あんた、岸和田へ来る途中から、バスの中でよう喋ってはったけどなかなか詳しいでんな。」
通人… 「詳しいちゅうもんやない。そもそもわしの曾お爺ちゃんちゅうのがその昔、岸和田のお殿さんやった岡部さんに勉強を教えてたんや。名前を岡目八目(オカメハチモク)て言うた。」
観客A… 「ほんまでっかいな。なんや変な名前でんな。」
通人… 「ほんまやからしゃあない。その八目さんから伝わった家宝が、今も家の片隅にある、数ある蔵の中にわんさかと詰まったある。」
観客A… 「なんかその話おかしいでっせ。さっきバスのなかで6帖二間に家族5人暮らしや言うてたんとちゃいまんのか。」
通人… 「それは別荘や。」
観客A… 「そんな別荘ありまっかいな。」
通人… 「あるんやからしゃあない。」
観客A… 「またそれかいな。ほんでその蔵に何が入ってますんや。」
通人… 「聞きたいか?。そら聞きたいやろなあ。……そっちのあんたも聞きたいやろ。……そうやろなあ、聞きたいわなあ。」
観客A… 「あの人、何にも言うてまへんで。」
通人… 「そんな事ない。見てみい、わしの顔見てるやろ。」
観客A… 「それはだんじり来る迄、暇やから見てまんねやがな。不思議そうな顔してまっしゃろ。」
通人… 「まあえー。ついこの間や、7月の暑い日やった。なんせ数ある蔵やから三人がかりで調べたんや。殿さんから貰うた品物の数、何と千数百点。その中にまじってたのがなんと、これが驚くやないかいな。徳川家康から拝領した槍が二本や。」
観客A… 「ほんまかいな。」
通人… 「岸和田の殿さん言うたら、小出家から松平家。松平さんから引継いだのが岡部の初代藩主、岡部宣勝公。そのお父さんが岡部長盛、この人がすごかった。頃は天正十三年……。」
観客A… 「講談やがな。」
通人… 「当時破竹の勢いで勢力を拡大していた徳川家康に歯向かった、僅か四万石の信州上田の城主、真田昌幸・長男信之・次男幸村。この家康に歯向かうとは生意気な奴、こらしめてやれ。この時、真っ先に上田城に攻め入ったのが誰あろう、若干十八歳の初陣、岡部長盛公。奈良の名工金房兵衛尉政次(カナンボウ ヒョウエノジョウ マサツグ)がうった十文字、大見の槍を振りかざして突進した。さしもの真田一族も恐れをなして退散したという。"天晴れ、天晴れ!"と徳川家康から拝領した、槍二本。その丸子の槍があった。」
観客A… 「あんた、岸和田まで来て嘘言うてたらあきまへんで。」
通人… 「嘘やあれへんがな。みんな嘘や思うのも無理は無い、わしでさえ腰を抜かしたもんや。ところが腰を抜かしたのが早かった。もうこれで終わりやと思うて、ふっと顔を上げたら遥か向こうにもう一つ蔵があった。」
観客A… 「ちょっと待ちなはれ。6帖二間に住んでる人が、何で遥か向こうの蔵やねん。えー加減にしなはれや。」
通人… 「三日三晩かけて調べた後にその蔵や。ようし!何としてでも今夜中に調べよういうんやが、なんせ遥かむこうや。近くに見えてたけどやっとのことでたどり着いたのが、三日後の午前二時や。」
観客A… 「何や聞いてる方が阿呆らしなってきた。それからどないしました。」
通人… 「そら、びっくりしましたでえ。今まであった蔵と違う、その蔵の大きさに百人全員が肝をつぶした。」
観客A… 「三人や言うてたんとちゃいまんのか。」
通人… 「闇夜にそびえるその蔵の異様な大きさに、ただ声もでない文部省調査団百人。」
観客A… 「三人や。それも嫁と息子やろ。」
通人… 「全員が見守るそのなか、蔵の鍵をあけた。一体この大きな蔵には何が入ってるんやろ。目を凝らしてみても何にも見えへん。誰かが懐中電灯を点けたその瞬間や、なんと百人全員が氷のように固まってしもうた。コンコンと降り続く雪のせいやない。」
観客A… 「7月やろ。雪が降るかいな。」
通人… 「開かれた扉の中に照らされた、その物体の神々しいまでの美しい姿に一同100人全員が手を合わせた。」
観客B… 「いったい何がでてきましたんや。」
観客A… 「あんた、そんな事聞いたら調子に乗って喋りまんがな。ほっときなはれ。」
通人… 「何でこんなもんが、この東北の片田舎にあるんや。どないしてここ迄持ってきたんやろ。皆で丁丁発止、喧喧諤諤、一姫二太郎や。」
観客A… 「なんや、その一姫二太郎ちゅうのは。四文字熟語にもなってへん。」
通人… 「さあ、ここまで言うたら皆ちょっとは想像出来るやろう。…あんたはどうや、なに?。わかった。そうか。…あんたは?わかった。…そっちのあんたは、えー?わかれへんか。……よっしゃ言うたげよ。これがなんとびっくりしなや、岸和田のだんじりや。」
観客A… 「岸和田のだんじりが、東北にあるわけないやおまへんか。だいいちどないして運びますんや。」
通人… 「肩で担ぐか、泳いで渡るか。」
観客A… 「噺がちゃいまっせ。川とちゃうで海は深いんや。」
通人… 「深〜いか、浅〜いか。」
観客A… 「もうえー、もうえー。」
 わあわあ言うてる処へ、休憩が終って走り出した旧市21町のだんじり。岸和田市外の人に説明しますと、岸和田の祭りは9月と10月があって、9月の祭りも旧市の地区と春木地区の二つあります。旧市が21台、春木が14台。10月の祭には47台、合計で82台のだんじりがあります。
 この頃は別所町が復活したり、10月の作才町が増えたり、積川町橋室はだんじり持ってるけど曳いてなかったりと、ややこしいですけど間違うてたらあやまります。落語の噺やと聞き流してください。
 そのうちカンカン場を曳くのが旧市21町のだんじり。まず最初にカンカン場にやってまいりましたのが大北町。
観客A… 「来ました、来ました、来ましたでー。仰山の人が曳いてますなあ。いったい全部で何人位いてますんやろか。」
通人… 「そうやなあ、町によって違うけど400人から500人やな。」
観客A… 「そら、すごいもんやな。見てみなはれ、子供から大人まで同じ法被着て見事なもんですな。鉢巻きも揃うてるがな。」
通人… 「当り前や、同じ法被着てんと参加出来へん。鉢巻きは格好つけでやってんのとちゃいまっせ。こけた時に頭打っても大きな怪我せんようにやってまんねん。それより綱の一番前走ってる若い子、何ていうか知ってまっか。」
観客A… 「ほんに子供さんの前、走ってんのは高校生位でんな。何て言いますんや。」
通人… 「あの子らも青年団や。青年団は綱の後ろの方を曳くんやけど入って一年目は、綱先いうて一番前を持たされまんのや。子供らだけやったらだんじりの方が早い。綱がたるんで危ないさかい、元気のえー若い子が、小さい子に怪我させんように一生懸命走ってますんやで。この子らが一番しんどいかもしれまへんな。」
観客A… 「ほんにしんどそうや。綱先の前で瓢箪の大きなのを持って走ってんのはなんです。」
通人… 「あれが纏ちゅうもんです。その町のシンボルみたいなもんですわ。岸和田の人やったら、あれを見たら何処の町かわかるらしい。」
観客A… 「えらい勢いで走って来ましたけど、カーブの手前で止まりましたで。何かありましたんか。」
通人… 遣りまわして知ってますやろ。その遣りまわしの前に一回だんじりを止めなあかん、これが一旦停止です。車やったら信号の手前に線引いてますやろ、だんじりも一緒ですわ。但し車の線より大分手前にだんじり専用の線を引いてますんや。岸和田では普段でも車はあの線で止まらんとあきまへん。それだけやない、信号の無い交差点でも曲がる時はそこで止まらなあかん。但し曲がる時は左右の確認はせんでもえー。その代わり屋根を見らんとおこられるらしい。岸和田の自動車学校では皆そない教えてるそうでっせ。」
観客A… 「へえー、岸和田では免許取りにくいですなあ。」
通人… 「そういう事でんなあ。」
観客A… 「あ!来た、来た、来ましたでえ。…わ!…わ!…わあ!……おお!……うわあ!……うおお!!。……こんな落語はじめてや。…わあ!……ああァ!……このまま一時間喋ったろかな。……うわあ!……ふう……。……曲がりましたなあ。しかしえらい迫力でんなあ。」
通人… 「わしも聞いては来たけど、すごいでんなあ。…あ!また次きましたでえ。」
観客A… 「今度は反対側から来ましたで。こらまた仰山いてますなあ、長い綱ですなあ。シタノマチて書いてまっせ。」
通人… 「下野町(しものちょう)ですわ。ここは岸和田で一番綱の長いので有名なとこですわ。」
観客A… 「ほんま長いでんな。先頭はずっと前へ行ってんのに、まだだんじり来まへんで。」
通人… 「そうでっしゃろ。なんせ先頭の人はだんじり見らんと祭を終るらしい。」
観客A… 「あんた暫くだまっときなはれ。 あ!来た、来た。…わ!…わ!…わあ!……おお!……うわあ!……うおお!!。…わあ!……ああァ!……曲がりましたなあ。」
通人… 「曲がりましたなあ。また来ましたで。」
観客A… 「あ!来た、来た。…わ!…わ!…わあ!……おお!……うわあ!……うおお!!。こんなんばっかりや。…わあ!……ああァ!……曲がりましたなあ。」
通人… 「曲がりましたなあ。また来ましたで。」
観客A… 「あ!来た、来た。…わ!…わ!…わあ!……しかし、いつまでこんなんやりまんの。そろそろ次いきましょか。私も疲れてきた。」
観客A… 「さっき前で子供がこけてましたやろ。何で綱、離しまへんのやろ。怪我しまっせ。」
通人… 「綱離さへんかったら擦り傷ですむけど、離したら後ろの人もこけて大きな事故になるんや。そやから岸和田ではこけても絶対に綱を離したらアカンちゅうて、子供の時からいわれてるんや。」
観客A… 「そら怖いですな、命がけやがな。スピードも大分出てまっせ、エンジンは何処に積んでますのやろ。」
通人… 「そんなもんあるかいな。皆で引張ってますんや。」
観客A… 「仰山人も乗ってるし、重たそうでっせ。それがあんなスピードが出て綺麗に曲がって、…どっかにハンドル隠してますんやろ。」
通人… 「だんじりの前で二人、それと後ろで体の大きな人が仰山いてますやろ。あの人らが曲げてますんやで。」
観客A… 「信じられへんなあ。だんじりの後ろにシール貼ってんとちゃいまんのか。」
通人… 「どんな?」
観客A… 「トヨタとか、ニッサンとか……。」
通人… 「車やがな、それやったら。ホンダも言うたって。」
観客A… 「まだありまっせ、マツダ・三菱・スズキ・クロガネ…。」
通人… 「何処までいくねんな?。なんやそのクロガネちゅうのは。車と違う。
屋根に乗ってる人がいてますやろ。あの人が曲がる時の指示をだしてまんねん。」
観客A… 「格好よろしなあ、あれは。あんだけ走ってる上でよう踊ってますな。しかしあんまり高う飛んだらあきませんやろ。」
通人… 「何でやねん。」
観客A… 「そうでっしゃろ。飛んでるあいだに、だんじりが行ってしもたら悩まなアカン。高う飛び過ぎて……あっ!行ってもた。……次のだんじり来る迄またなしゃあない。」
通人… 「そんな阿呆な事できるかいな。あれは大工方いうて、一年中練習してますんや。」
観客A… 「大工さんしか屋根には乗れまへんのか。」
通人… 「昔はそうやったらしいけど、今はそんな事もないらしい。そやけど誰でも乗られへん。試験があるんや。弁護士になるより難しい。」
観客A… 「どんな試験があるんでっか。」
通人… 「先ず岸和田に二十年以上住んでるちゅう証明書や。それに税金をおさめてなあかん、納税証明書も要る。これがあったら試験を受けられるんや。」
観客A… 「あんた役所の人でっか、まァよろし。……それから?。」
通人… 「受験料を納付して、筆記試験と路上試験や。これがどっちも難しい。筆記は現代国語から微分・積分まである。」
観客A… 「ほたら、路上試験いうたらなんです?。」
通人… 「走ってるバスの上に乗って踊りまんねん。」
観客A… 「ほんまかいな。面接はないんでっか。」
通人… 「これが一番大事や、なんせあれだけ目立つ場所や。よほどの男前やないと免許くれへん。」
観客A… 「そんな事おまへんやろ。どう見ても……この人は面接受けて無いいう人もいてましたで。」
通人… 「あんた、ようそんな事言えまんな。岸和田は皆、男前ばっかりや。どっかよその祭でっしゃろ。」
観客A… 「女の子も仰山いてますな。皆可愛い子ばっかりや。」
通人… 「そうですやろ。岸和田の美容院は、正月より祭の方が忙しいらしい。」
観客A… 「ほんに、凝った髪型してますな。寝る時どないしてますんやろ。祭は二日でっしゃろ、頭は洗いまへんのかな?。」
通人… 「知りまっかいな。そんな事聞いてどないしまんねん。」
観客A… 「私が洗たげよかな思うてね。……しかし、困ったな。」
通人… 「どないしましたんや、何を考えてまんねん。」
観客A… 「これだけの女の子や。……私一人では体がもたん。」
通人… 「何をしょうも無い事いうてまんねん。それよりあんたが喋ってる間に一杯行ってしまいましたがな。ちゃんと見てましたんか?。」
観客A… 「まかしとくなはれ、全部おぼえてま。」
通人… 「ほな最初は何処でした?。」
観客A… 「一番最初は大北町や。次が中北町。」
通人… 「なるほど、その次は何処や?。」
観客A… 「並松町に大手町や。」
通人… 「ほう!ちゃんと覚えてんやな、次は?。」
観客A… 「下野町・紙屋町・春木南に中之濱町と、どや。」
通人… 「なるほど、その次は?。」
観客A… 「沼町・中町・藤井町に大工町。宮本町・南町に筋海町。続いて 本町・五軒屋町・堺町・北町・上町、最後に別所町と、どうです。」
通人… 「こらまいった!あんた喋ってるだけや思たら、しっかり見てましたんやな。それに町の名前も全部知ってて、えろう詳しいでんな。」
観客A…

「当り前や! あんたの蔵には、だんじりがあったかも知れんけど私の家の蔵にはカンカン場が入ってましたんや。」

 

著作:Kenzo 
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