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presented by 岸和田だんじり祭振興会 

   

■ きしわだ創作落語 ■
〜其の四〜

『城下町』

子供… 「ただいま。 あっ お父ちゃん、なんで家でいてんねん。 
リストラか?」
父親… 「アホ、なんでお父ちゃんがリストラやねん。 その逆や、よう働いてくれる言うて 特別に休みを貰うたんや」
子供… 「お父ちゃん、それは違うわ。 世の中そんな甘いもんとちがうで
あした会社へ行ったら 机ないかもわからへんで」
父親… 「そんな心配してくれんでもえー。 お父ちゃんの机は 会社で一番 日当たりのえー窓際にあるんや」
子供… 「あのな、お父ちゃん。 アンタ知らんようやから 教えてあげるわ。 肩タタキて聞いたことあるやろ。 机が窓際にあるちゅうことは 窓際族ていうてな アンタそろそろ 辞めなはれちゅう合図や。 お父ちゃんには 将来のある子供もおるんやから もっと仕事 頑張ってもらわなアカン。 今からでもかめへん 会社へ行っ
てきなはれ」
父親… 「そら何を言うねん。 なんでワシがお前に 説教されなアカンのや。 お前こそどないしたんや。 今日はえらい早いやないか」
子供… 「そうや、お父ちゃんの相手してる場合と ちがうのや。 これから友達と 図書館へ行くんや」
父親… 「お母ちゃんが言うとったけど、この頃お前 よー図書館へ行くらしいな えーことやがな」
子供… 「お父ちゃんも行ったらえーのや、冷暖房はあるし、静かやし
あれで布団があったら・・・・・」
父親… 「昼寝かいな。 お前のことや まーそんなもんやろ」
子供… 「今日は違うで。 ホンマに勉強しに行くんや」
父親… 「何を調べにいくんや、お父ちゃんで解ることやったら 教えたげるで」
子供… 「いやいや お父ちゃんには無理や なにせ昔のことや」
父親… 「昔のことやったら まかさんかいな、どんなことや言うてみ」
子供… 「ほたら言うけどな、今やったら国道何号線とか 府道なんとか線て言うけど 昔は先生の話では違うらしい。それを調べに行くんや」
父親… 「それやったら お父ちゃんも知ってるけど 向かいのお爺ちゃんの方がよう知ってるわ。 表で待ってる友達も 中へ入って貰うて お爺ちゃん呼んどいで」
子供… 「向かいのお爺ちゃん言うたら、甚平はんか? ボク あのお爺ちゃんちょっと苦手や」
父親… 「何でや。えーお爺ちゃんやないか」
子供… 「そうかてな ボクの事を子ども扱いしよんねん」
父親… 「それでえーやないか、お前はまだまだ子供や。 もっとしっかりしてきたら 大人やと思うてくれる」
子供… 「そうかわかった。 今日はしっかりしたとこ見せたろ。 

・・・・たのもう、・・・たのもう。 甚平殿はご在宅か」
甚平… 「誰や思うたら 向いの子の太郎やないかいな。 今日は何の用や」
子供… 「拙者、向いに住まいする・・・」
甚平… 「わかってるちゅうねん。お前は向かいの子や。 わしが聞いてんのは 用事は何や言うてんやがな。 どないしたんやお前、今日はちょっとおかしいで」
子供… 「今般、参ったのは 貴殿にちとお願いの儀があり、遠方より馳せ参じた次第である」
甚平… 「向かいや、お前の家は」
子供… 「甚平殿にはお変わりなく、この上なき幸せでござる」
甚平… 「今朝も会うたやろ、うちの前でこけて泣いとったやないか」
子供… 「これは異なことをおっしゃる。拙者先ほど当地、岸和田に着きもうしたところ。甚平殿もお年を召されたか。 カンラ カラカラ」
甚平… 「何やお前は。 ・・・おーい、お向かいの。
この子、何とかしなはれ。 ちょっとおかしいで。 病院連れていったほうが えーのんちゃいまっか」
父親… 「すんまへんな。 実は子供らが学校の宿題で、昔の話聞きたい言うてますのや。 聞いたら甚平はんの よう知ってる話やよってちょっと来て 教えたっとくなはるか」
甚平…

「なんや、そんな事かいな。 それやったら おやすいことやがな。

・・・・・ なにが遠方より馳せ参じたや。見てみい、歩いて3歩やないかいな」

父親… 「えらいすんまへんな、こっちィ上がっとくなはれ」
甚平… 「ヘーへー、おおきに。 ほな一寸すわらせてもらいます。」
父親… 「甚平はんに 座ってもろたら 後はお前の友達や。 みんな上がってもろて そーそー皆 輪になってな おとなしゅう聞きなはれ」
甚平… 「ほんに仰山 集まってるやないかいな。 これみんな お前の友達か えらい老けたのもおるな」
子供… 「甚平はん。それ、うちのお父ちゃんや」
甚平… 「なんや、あんたかいな。 親が一番前に座って どないしまんねんな 子供さんを前へ座らせてあげなはれ」
父親… 「そうかて わしも聞きたい」
甚平… 「聞きたいやあれへんがな。 今日は子供さんに話するのんや、あんたは 後ろへいきなはれ」
父親… 「お殿さんのおった頃の岸和田いうたら どんなんでしたんかな。
わしも聞きたいし、教えとくなはるか」
甚平… 「私で知ってる事やったら、教えたげよ。 昔のどんなことを喋ったらえーんかな」
父親… 「その頃の町の名前とか 道の名前なんか 判る程度でお願い出来まっかいな」
甚平… 「そうでんな、なんせ随分昔の話やよってな。 私も先祖さんから聞いた事、思い出しながら 話さして貰いまひょか」
父親… 「おおきに、すんまへん。 お前ら静かに聞くんやで」
甚平… 「今は岸和田・貝塚・泉佐野いうて 市になってるけど昔は岡部の殿さんが治めてた岸和田藩や。 その中心が岸和田城、別の名前を千亀利城(ちぎりじょう)いうたんや。 これは皆聞いたことがあるやろ、この岸和田城の廻りを岸和田いうてたんや。 それも三つに分かれてたらしいな。」
子供… 「お爺ちゃん、その三つちゅうのは、何や?」
甚平… 町方浜方村方、この三つに分かれてたらしい。
町方言うたら 五町いうて、本町・堺町・魚屋町・南町それと北町や。
浜方言うたら中町・大工町・紙屋町・中之浜町・大手町・中北町と大北町やな。
それに村方や、これは岸和田村ちゅうて五軒屋町・宮本町 ・上町やな」
子供… 「それやったら 今と同じ名前や」
甚平… 「違う違う。 皆にわかりやすいように 今の名前で教えてあげたんや。 昔の名前やったら わかりにくいよってな」
子供… 「ふ〜ん、お爺ちゃん。 コイツがな、宮本は昔から 都会やったて言うんやけどほんまか?」
甚平… 「いや、それは違う。あの辺は、ほとんど家もなかったんや」
子供… 「ほな甚平はん、宮本は都会と違うたんやな」
甚平… 「そうや、田圃ばっかりや」
子供… 「ほら見てみい、僕の勝ちや。 さっきの10円返せ」
甚平… 「そら、何をしてんねんな。子供が賭け事したらアカンがな」
子供… 「かめへんねん。こいつは今まで 大分稼いでるよって 少々の事ではへこたれへん」
甚平… 「アカン、アカン。 子供はそんな事してたら ろくな大人になられへん」
子供A… 「そやけど甚平はん。 大人はえーけど、僕ら子供は パチンコもでけへん、麻雀もアカン。 競輪競馬もさせてくれへん。何を楽しみに生きて行ったらえーんやろ。
・・・ やっぱり女しかないか」
甚平… 「そら何を言うねん。 しゃあないな、この頃の子供は。 勉強だけやっとったらよろしい」
子供A… 「甚平はん、それは無理ちゅうもんや。 学校で勉強して、家へ帰って 又塾へ行って その間に習い事、身の休まる間がおまへん。
昨日なんかこれだけ忙しい僕に、お母ちゃんなんちゅうたと思います?」
甚平… 「そんな事知るかいな、なんて言うたんや」
子供A… 「疲れきってる僕に、『風呂入れ』・・・『歯、磨け』・・・」
甚平… 「当り前や。しょうもない事言うてんと黙って聞きなはれ」
子供… 「ほたらお爺ちゃん、お侍さんはどこでおったんや?」
甚平… 「えー質問や。 南町は安松屋言うて大きな薬屋さんがあった商人の町やけど、お侍も一杯住んでたんや。
山下引
て知ってるか。下屋敷いうてな、大きなお侍さんは 普段生活する家の他に別にもう一軒家を持ってたんや。岡部の殿さんも岸和田へ来たとき、別荘に使うえーとこ無いか言うて捜したら山下にえー場所があったんや。岸和田を見渡せるそこに別荘を建てて、家のまわりに殿さんを護る家来が仰山おった。ところが殿さんが死んでしもたら、その別荘もいらんし、家来も用が無くなってしもうた。それで次の殿さんはその別荘をお墓にしたんや。これが今の泉光寺や。そやからあの建物は寺やない、別荘の造りや。一遍見にいっといで」
子供B… 「甚平はん、残ったお侍さんは何処へ行ったんでっか」
甚平… 「それが南町や。山下から南町へ移ったんで山下引言うたんやな。
その武士が住んでた処を新屋敷言うてお武家さんが仰山おったらしい」
子供B… 「ふーん、山下町もずっと前からあったんか」
甚平… 「山下だけやない、岸和田は他にもお城がでける前から古い処が一杯ある。
山直(やまだい)・八木(やぎ)・掃守(かもり)なんかは飛鳥時代から在る名前やで」
子供A… 「そら古いわ、飛鳥時代いうたら聖徳太子のおった頃や」
甚平… 「よう知ってるな、お前は歴史が好きやな」
子供A… 「そんな事ないけど、聖徳太子はいつもお世話になってるよってな」
甚平… 「一万円札の事かいな。仰山お金持ってんやな、ちょっと貸してくれるか」
子供A… 「かめへんけど、甚平はんは新規のお客さんやよって、普通より利子高くなるけどかめへんか。それと保証人が要るで」
甚平… 「本格的やな、お前は。えー商売人になるわ」
子供A… 「有難うございます。名刺渡しときますよって、お困りの時はなんなりとご利用下さい」
甚平… 「冗談やがな、名刺まで持ってんのかいな。しっかりしてるちゅうもんちゃうで、えー。それより話戻そか。どこまで話したかいな。 あーそうか、南町の新屋敷やったな」
子供B… 「そうそう、浜もお侍さんが、おったんか?」
甚平… 「いや、浜はやっぱり漁師さんが多かったんやろな。中町は御用商人、大工町は船を作る船大工の多かった町。それ以外は漁師さんが多かった」
子供A… 「お百姓さんは お米で税金払うて聞きましたけど、船に乗ってる漁師さんは税金はなんで払うんでっしゃろ?」
甚平… 「お前はお金の話になったら元気になるな。いや、それもえーこっちゃ。お百姓はお米で税金をおさめたらえーんやけど、魚はそんな事でけへん。そやから浜村は和泉屋いうて浜の大きな庄屋さんがいたはって、そこで魚をお金に換えて税金を払てたみたいや。庄屋さんて言うのは村の代表で、東京の方では名主いうたらしいな。 
そうや、こんな話もあるんや。昔紙屋町喜助いうて、たいそう親孝行な若者がおった。一日の仕事が終った夜の晩には浜辺に行って、自分で作った弓矢で魚を採ってたんや。その魚を病気の母親に食べさせて喜んで貰うのが、最高の楽しみやったらしい。何年かたってからこのことを庄屋さんが聞いて、殿さん迄この噂を聞いた。岸和田でこんな親孝行が住んでる言うて、猟に使う弓矢一式を褒美に与えた。 これが紙屋町の纏のデザインになったちゅうて、お爺ちゃんから何べんも聞かされたなあ。
・・・ どないしたんや。お前泣いてんのかいな」
子供A… 「・・・甚平はん、これが泣かずに聞けますかいな」
甚平… 「なるほどな。なんやかんやちゅうても、やっぱり子供や。親孝行はいつの時代もえーもんや。なあ・・・」
子供A… 「そうでんな。そんな話聞いたら・・・。もう・・・せつのうて・・・・・。
なんで母親に食べさす前に売って銭にせーへんかったんか・・・。情けのうて、情けのうて・・・」
甚平… 「それしか考えられんのか、お前は」
子供A… 「いつの世も頼りになるのはお金です。友達・女は裏切りよる。畜生の方がまだましです。 うちの親にも、せんど言うて聞かすんやけど、これがなかなか・・・」
甚平… 「いっぺんお前の家、行くわ!」
子供B… 「まあまあ、お爺ちゃん。こいつ変わってますねん。また後できつう言うときますよって、そない怒らんと喋ってえな。その纏の話おもろいわ。纏にもいろんな言い伝えがあるんやなあ。他の町もあるんか?」
甚平… 「そら各町、皆あるみたいやけど、それはまた今度してあげる。
お侍さんは、お城の周りがやっぱり一番沢山住んでたんやけど、並松町もお侍さんは多かったな」
子供B… 「並松にもいてたんか?」
甚平… 「紀州街道の欄干橋のとこらは商人町やけど、ちょっと大阪側から下野町の境当りまでは武士の家が一杯あって、町の名前も今は無くなってしもうたのが一杯あったみたいや」
子供B… 「どんなんです? 聞かせて欲しいな」
甚平… 「今の紀州街道やな、あの道の両側は土手で大きな松並木があった。それで並松町て言うんや。
紀州街道の一つ下の道の両側を水主町(かこまち)、もう一つ下を片原町(かたはらちょう)て言うた。その海側の筋を船蔵筋(フナクラスジ)いうて、殿さんの持ってる船の倉庫があったらしい。今は道の上と下で、町名の変わるとこがあるけど、昔は道の両側で町を作ってたんや。これを頭に入れといたら、判り易いよって覚えとき」
子供B… 「うわー、だんだん難しなってきたなあ。 いっぺんに覚えられへんわ」
甚平… 「そらそうや。わしも何十年もかかって覚えたんや。わしのお爺ちゃんも、そのお爺ちゃんも、何べんも何べんも聞いてやっと覚えたことや。 何ぼでも教えたげるよっていつでも聞きにおいで。それで皆、大きなったら自分の子供や孫に聞かせてあげたらええ。自分の生まれた所の昔話くらいは知っといてもえーことや。忘れたら、また話したげる」
子供B… 「ほたらお爺ちゃん。並松は何で並松町ていうんや?」
甚平… 「えー! もう忘れたんかいな、いま言うたとこやで。 まあええ
並松は道の両側に土手があって、大きな松が一杯ならんでた、それで並松町てできたんや。ここまで聞いたら、最初に喋ったのは皆忘れたやろ」
子供B… 「忘れてもたし、もうなんか訳わからんようになってしもたわ」
甚平… 「かめへん、かめへん。それで当り前や」
子供B… 「お爺ちゃん、もうついでや、他にもあるんやろ、皆教えてえな」
甚平… 「よっしゃ、ほないくで。 紀州街道の海側はさっき説明したな。
山側へ行くと 幟町(のぼりまち)・鉄砲町(てっぽうちょう)・周防殿町(すおうどのちょう)・吹屋町(ふきやちょう)・袋町(ふくろまち)それに火消蔵(ひけしぐら)。 こんだけが今の並松町や。
筋海町北町は餌差町(えさしまち)・鷹師町(たかしまち) ・九軒町(くけんちょう)・上砂町(かみすなまち)に下砂町(しもすなまち)。 堺町は上堺町(かみさかいまち)に下堺町(しもさかいまち)。 中之浜町は中の場所と書いて中の場(なかのば)、中北町は中北浜、大北町が大北之浜。
それに中町がすごい、北ノ中町・中ノ中町・中ノ裏町・南中町・南裏町と五つにわ
かれてた。
これだけやない、まだある。竹右ヱ門町(たけえもんちょう)・北半町(きたはんちょう)・法印町(ほういんちょう)・奥の町・着到町(ちゃくとうちょう)。 六軒町(ろっけんまち)・魚屋町(うおやまち)・鍛冶屋町(かじやまち)・手代町(てだいちょう)・百姓町(ひゃくしょうまち)。 三軒屋・六軒屋・上堀(かみほり)・下堀(しもほり)・泉織。 瓦屋敷・蔵屋敷・坂口・小寺・池の尻・東光寺と、どうや。主だった所はこんなもんや。
次は道の名前や、いくで。船津橋筋・堀端筋・船蔵筋。 寺町筋・蛤小路(はまぐりこうじ)・筋違(すじちがい)。 本町筋・堺町筋・南町筋・浄園寺筋・石垣筋・番所の辻。 もっといこか?」
子供… 「いや、もうえーわ。聞いてる方が疲れるわ。やっぱりお爺ちゃんはよう知ってるなあ。今日はえー話聞かしてもろてよかったわ。僕らが、お爺ちゃんになるまで長生きしてや」
甚平… 「おおきに、おおきに。もう何にも言わんでもえー。よう言うてくれた。しかし、その言葉に嘘はないやろな」
子供… 「当り前や、僕らは岸和田城のある岸和田の生まれや。これをチギリにします」
著作:Kenzo 
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